【認定】特定非営利活動法人SEEDS Asia

ミャンマー事業概要

■ミャンマーで事業を開始したきっかけ

ミャンマーは約2,000km にわたる沿岸線を持ち、津波や高潮、洪水等のリスクの高い国です。また、サイクロン被害や、多くの活断層上にあり地震も避けられません。また、気候変動や森林伐採の影響とみられる洪水、土砂災害、竜巻被害も近年多くみられるようになりました。

 

特に、2008年にミャンマーを襲ったサイクロン「ナルギス」は、風速(毎時)250km、3.6メートルの高潮被害に遭い、約14万人に及ぶ死亡・行方不明者を出す惨事となりました。

 

災害からの復興には、同じような災害が再度発生した場合でも被害を出来る限り軽減できるように、以前よりも災害に強くなるようにする(Build Back Better)という視点が非常に重要です。

 

SEEDS Asiaは、2008年より、防災の技術移転や、防災教育に関する活動を展開することで、サイクロン・ナルギスからの復興に貢献することを目的に、ヤンゴンに事務所を構え、活動を開始しました。

 

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■ミャンマーでの事業内容

□建設仮設住宅の技術支援
サイクロン・ナルギスでは、被災地の家屋が崩壊し、人々は生活の場も失ったため、家屋の建設が緊急に必要でした。災害に強い住宅建設のためには、仮設住宅建設時からの技術支援が重要であると考えています。ミャンマーのサイクロン・ナルギス被災者支援で最初に実施した事業は、2008年8月~9月の2カ月間での「サイクロン被災者向け仮設住宅建設の技術支援及び人材育成事業」でした。政府高官や地方役人、また建設会社役員等を集めての防災政策協議のためのワークショップ、地元の大工等の建設業務従事者の建設知識・技術向上のためのワークショップを開催して、SEEDS Asiaのメンバーにより、日本の防災政策の紹介や防災建築技術トレーニングなどを実施しました。

 

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□学校防災事業(学校施設の修繕・防災教育)
次に取り組んだのは、地域の人々にとっては避難場所になり、災害への対処能力が充分でない子どもが集まる学校の安全確保です。防災教育に対するニーズ調査を踏まえ、サイクロン・ナルギスで甚大な被害を受けたデルタ地域の都市、エヤワディ管区のダッラ、ラブッタ県で、学校防災事業に取り組みました。具体的には、コミュニティの住民、対象小学校の教員や生徒たちの間で防災に関するディスカッションやワークショップを通して街の安全点検を行いました。また、現地の要望に応じて、災害時の安全確保のため、小学校施設や通学路の修繕を行いました。

 

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□移動式防災教室(MKRC: Mobile Knowledge Resource Center)
こうした学校での防災教育は、都市部でも充分ではありませんが、特に農村・漁村といった、都市中心部から距離があり、情報や支援の届きにくい地域ではほとんど実施されていないことが分かりました。そこで、SEEDS Asiaは、現地技術集団のミャンマー工学会(MES)とともに、2009年にトラックを改良した「MKRC: 移動式防災教室」を開発しました。

 

移動式防災教室は、改良したトラックに防災模型やポスター、防災カードゲームなどを搭載し、子ども達が、見て、触って、楽しく防災のことを学ぶことができる体験型の防災学習施設です。

 

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移動式防災教室 MKRC

 

 

移動式防災教室によるトレーニングの特徴の1つが、ToT(Training of Trainers)形式です。ToT形式とは、最初に、学校教員に対してトレーナー養成トレーニングを行い、次にそのトレーニングを受けた学校教員が子どもや地域住民に対して防災トレーニングを行う、というものです。こうすることで、学校教員の防災授業に関するスキル習得を図り、学校教員が継続的に子どもや地域住民の方々に防災知識の共有を図っていくことができます。

 

トレーニング・プログラムは、知識マネジメントモデルである、KIDA (Knowledge- Interest- Desire- Action)モデル(※) を適用し、短期でも、防災に対する意欲の向上から防災行動につなげられるプログラムとなるよう工夫しています。具体的には、災害の仕組みから安全確保の方法までを楽しみながら学べるポスターやカードゲーム、模型などの防災教材と、緊急持ち出し袋やペットボトル救命具の作成、防災マップ作成や学校防災タスクフォース委員会の立ち上げ、防災活動計画策定、避難経路の確認等の実践的なワークショップを組み合わせたものとしています。また、集会所のない場所でも、到着と同時に教室として使用できるように改造したトラックを使うことで、住民の移動負担や時間不足の問題を解消するばかりでなく、移動式防災教室の外装や教材を人気漫画のキャラクターのデザインを採用し、ゲームや実践を通じることで誰でも楽しく防災学習ができるという点で参加者からも好評を得ています。

 

※KIDAモデル:経営分野における広告が持つ、興味から購買へと導くAIDMA(Attention-Interest-Desire-Memory-Action)を防災教育に敷衍した、知識から行動へと導くモデル理論。ショウラジブ「1-2-3 of Disaster Education」京都大学(2010年)。

 

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MKRCの教材を活用して生徒に教える教員

 

 

□水上移動式防災教室(WKRC: Water Knowledge Resource Center)
ミャンマーのデルタ地域の中には、ミャンマー最大の都市ヤンゴンから陸上移動で到達できず、船でないと移動できない場所もあります。そのような場所こそ、ナルギスで甚大な被害を受け、防災教育が求められています。支援が届きにくい場所に防災教育を届ける、という移動式防災教室のコンセプトを実現するため、SEEDS Asiaは、トラック改良型に加え、船改良型の水上移動式防災教室も開発しました。
デルタ地域の子ども達に確かな防災知識を届けるため、水上移動式防災教室はトラックではたどり着けない湾岸や河川付近の約100校に及ぶ学校に訪問しました。2010年から2015年9月迄活躍した船型のWKRCは、国内の道路や橋の開発が進んだことに加え、MKRCをスーツケースの大きさに縮小した防災学習ツールキットの開発によって、その役目を終えました。

 

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水上式移動教室 WKRC

尚、移動式防災教室については、2015年度外務省ODA白書に特集が掲載されておりますので、是非ご覧ください。

 

□政府防災関連担当職員および技術者の能力向上支援

ミャンマー政府は、ナルギスの被災後、国家の防災対策を推進してきました。2010年にはミャンマーの正規科目「生活科(Life Skill)」に、防災の事項も盛り込まれ、2012年には新政府の下でMAPDRR: Myanmar Action Plan for Disaster Risk Reductionとして国家防災対策が正式に発布されました。

 

このように、ミャンマーでは、防災教育や政策分野における防災事業を推進するための制度が構築されたところです。今後、質の高い防災教育、防災事業を進めていくためには、防災に関する幅広い見識をもった職員や技術者が指導・監督し、事業評価を適切に行い、より効果的なものへと改善していくことが求められます。また、持続的なものとするため、政府職員と現地の技術者とのネットワークを強くしていくことも必要です。

 

そこで、SEEDS Asiaでは、防災対策の推進を担う政府の担当職員と技術者の能力向上と連携強化を支援するため、現地の工学系技術集団であるミャンマー工学会とともに、日本国内での関係省庁や団体、学術機関の協力を得て、2011年より継続してミャンマー政府職員等を日本に招へいして防災研修を実施しています。また、日本の専門家をミャンマーに招へいし、ミャンマーの政府や防災ワーキンググループ(国連や国際NGO等で構成)向けに日本のノウハウや災害の経験や教訓、研究成果を伝えるためのシンポジウムやワークショップを開催しています。

 

 

□学校と地域の連携した防災活動の拠点(センター)づくり
ミャンマーでは、サイクロン・ナルギスの被災を受け、2010年には、上述のように防災教育が正規科目として生活科の中に加えられました。私たちの移動式防災教室も、ミャンマー全土にはまだ行き届いていないものの、デルタ地域の多くの地域はカバーできました。次の段階として、もっと定常的に防災活動を根付かせるための、防災活動拠点(センター)づくりが必要です。学校と地域が連携して防災活動を定期的に行っていくためのセンターができれば、防災教育の観点から持続可能な社会を担う人材の育成(持続発展教育:ESD)を進めることが可能だと考えています。

ミャンマーの学校や地域での防災能力の向上のために、SEEDS Asiaは、次の段階として、JICA草の根技術協力支援事業として防災活動センターのモデルづくりを6か所で進めました。

 

□エヤワディ地域におけるレジリエンス力調査

サイクロンナルギスからの復興の過程に於いて、国家レベルでの防災能力開発・強化が強く認識され、政府主導によってエヤワディ地域ヒンダタ区に国家防災マネジメント・トレーニングセンターがヒンタダ地区に完成しました(2015年11月)。

本センターの開設にあたり、米国国際開発庁(USAID)の助成によって「防災能力強化支援プロジェクト」が開始しました。同プロジェクトは、UN-HABITAT、UNDP、ミャンマー赤十字並びに米国赤十字、ACTED、ADPCとSEEDS Asiaで構成される5つの実施団体の他、さらに5つの技術協力団体で構成された協同プロジェクトにおいて、SEEDS Asiaは 大学機関に対する能力強化やコミュニティの啓発活動を担当し、防災マネジメント分野に於ける研究支援活動や啓発トレーニングを実施しました。具体的には、ヤンゴン工科大学博士課程の学生と、ダゴン大学の研究チームへの奨学金・研究費の供与の他、専門家を招聘して日緬グループによる共同調査を実施し、防災研究の資金・技術協力事業を展開しました。

 

政策に活かすため調査の概要を共有するためのパンフレットも作成

□学校兼シェルター建設を含めた包括的学校防災(CSS)支援

上記の研究の過程で、2015年にはミャンマーのほぼ全土に及び大洪水が発生しました。

中でも、エヤワディ地域ヒンタダ地区は、ミャンマーの主要河川が分岐するデルタ地域の起点にあり、洪水の常襲地となっています。2015年の大洪水では、85,400人が被災し(ミャンマー情報管理ユニット、2015年)、過去にも堤防の決壊や越水で幾度もの大規模な洪水・浸食などの水災害に見舞われてきました。2016年にSEEDS Asiaとヤンゴン工科大学が共同で実施した湾岸地域の気候変動災害リスクに関する調査(CCRI)では、区内の251の小中高校(当時)のうち、21%が雨季になると一時的に閉鎖することに加え、地域に安全な避難場所がないことが明らかになりました。そこで、SEEDS Asiaは3か年事業を通じて、教育と地域の防災拠点となる学校兼シェルターを建設し、避難所としての活用に向け、地域の人材育成を含めたハードとソフト双方を組み合わせた包括的な学校防災事業を推進しました(ヒンタダ地区のナベーゴン村とワーボチーボ村を主な対象村として事業を展開しました)。

包括的学校防災案件:ナベーゴン村学校兼シェルター案件の概要

学校と地域による総合避難訓練の様子(ナベーゴン村)

完成した2校目の学校兼シェルター(ワーボチーボ村)

尚、本活動は日本外務省による2019年度ODA白書(p. 74)でも紹介されています。

 

以上のように、2008年以降、SEEDS Asiaはミャンマーにおける学校と地域の連携を通じ、災害に負けない人づくり・まちづくりを支援して参りました。今後も引き続きみなさまのご支援・ご協力の程、よろしくお願い申し上げます。

 

■ミャンマーについて
ミャンマー(正式名称:ミャンマー連邦共和国)は、インドシナ半島西部に位置し、北東に中華人民共和国、東にラオス、南東にタイ、西にバングラデシュ、北西にインドと国境を接しています。首都はネピドー(旧首都はヤンゴン)。多民族国家であり、ビルマ族が人口の6割を占めていますが、多数の少数民族も住んでいます。国土面積は、67万6,578平方キロメートル(日本の1.8倍)、人口は6,062万人(2011年、出所:アジア開発銀行(ADB))で日本の半数弱です。

 

ミャンマーでは、1988 年の全国的な民主化要求デモにより社会主義政権が崩壊し、国軍がデモを鎮圧して政権を掌握してから、長らく軍事政権が続いていましたが、近年、民主化の動きが活発になってきています。特に2011年3月にテイン・セイン大統領の下で新政権が発足してからはその動きが加速し、8 月にはテイン・セイン大統領と民主化運動の指導者アウン・サン・スー・チー女史との直接対話が実現、10 月には200 名以上の政治犯が釈放され、11 月にはスー・チー女史率いる国民民主連盟が政党登録及び補欠選挙への参加を決定するなど国内の民主化・国民和解に向けた進展が見られました。

 

また、ミャンマーでは、米国及びEUによる経済制裁による影響もあいまって、基礎的イ ンフラの著しい未整備、多重為替レート、財政・金融インフラの未整備といったように、経済基盤がぜい弱でしたが、2012年にはその経済制裁は緩和され、ミャンマーでは、現在、世界各国の企業進出が進んでいます。ミャンマーの経済成長率は5.5%(2011年度,IMF推計)、物価上昇率は6.7%(2011年度,IMF推計)と推計されており、現在、ミャンマーは改革と経済成長の真っただ中にあります。

 

参考:外務省ホームページ(http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/myanmar/data.html#01)

 

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2013/02/19