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外務省主催 日本・モンゴル学生フォーラムへの講師派遣【日本/本部】

日本・モンゴル外交関係樹立50周年切手 全国の郵便局で販売されています

 

8月6日、外務省主催「日本・モンゴル学生フォーラム―自分と未来は変えられる。 日モの学生でSDGsを考えよう!―」の座学研修会がオンラインで開催され、事務局長の大津山光子が「防災×SDGs」の講義を担当しました。

 

本イベントは、日本とモンゴルの国交樹立50周年を記念するイベントとして開催され、両国学生が学び議論することを通じて、相互理解の促進と未来について考え、行動計画へとつなげていくことを目的として開催されています。今回の座学研修後には合宿研修が9月に開催され、モンゴル文化体験・交流の他、テーマ別のワークショップを通じて活動計画を策定するという、二段階の充実した交流・研修プログラムが予定されています。

 

講義では、最初に日本とモンゴルの共通課題として、気候変動の影響によるハザードの甚大化・激甚化について共有しました。例えば、日本でも極端現象として1時間に50mm以上の降水量が発生する回数が増加の一途を辿っており、洪水・越水という形で従来のインフラでは対応できない状況が全国で発生しています。一方モンゴルでは、ゾド(Dzuds)と呼ばれる極端な豪雪/低温/強風/水資源・飼料の枯渇する現象がより頻繁に発生するようになっています。このゾドが発生する度に、膨大な数の家畜が死亡し、遊牧という居住形式を失う「環境難民」が発生しており、1990年代の民主化に伴う土地利用・所有に関わる新たな法制度の影響も加わって、首都ウランバートルに人口が集中するようになりました(堤田・西前,  2014)

 

都市への過剰な人口集中は、環境悪化を生み出すことは世界共通の課題です。ただ、ウランバートル市において改善がなかなか進まない特殊な事情の背景には、まず1月の平均気温がマイナス24.6℃という極寒の中で暖房器具が欠かせず、その燃料として安価な国産の石炭が広く使用されていること、そしてウランバートル市が平均標高1,580mという高原の盆地に形成されており、大気が充満しやすい地理的条件が重なっていることにあります。

 

石炭の燃焼は、地球温暖化の原因となっている温室効果ガスはもちろん、身体に悪影響を及ぼす硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)、煤塵や水銀等、大気汚染物質を排出します。2018年にUNICEFが発表したモンゴルの大気汚染と子どもへの影響に関わる実態調査では、ウランバートル市の冬季大気汚染は国際基準値の133倍(PM2.5 が3,320 μg)に達しており、5歳未満時の死亡原因第2位は肺炎(毎年400人以上)という、深刻な事態が報告されました。生産・流通・コストの他、教育の問題も関わって、石炭にかわる安価且つクリーンなエネルギーの代替・普及にはまだ時間がかかってしまうこと、加えて、市場経済化に合った社会保障制度が未成熟(駿河, 2005)であること、首都でさえ病院や医者が不足している医療サービスの圧倒的な不足している社会的な脆弱性がその被害や影響をさらに大きくしています。

 

このように災害リスクを下げるためには社会の脆弱性を削減する(社会課題の解決に向けた)取り組み、対処能力の向上が欠かせません。気候変動によってハザードの激甚化・頻発化が加速し、従来のインフラ対策では太刀打ちできない状況が予測されているからです。災害時にどう対処するかという身を守る手段だけでなく、社会課題の解決に向けた取り組みはますます重要性を増しています。まずは身の回りを見渡し、生活や学びの空間を共にする誰かと議論することで、取り組むべき課題が明確になり、一人でできること、家族や友人とできること、そして第三者に協力を依頼することなど、「やってみよう!」が見えてくるはずです。今こそ、「災害被害を大きくするものは何か?」を問い、小さくても目の前の課題を解決していくこと、そして「今さえよければいい」、「私さえよければいい」から脱出し、長期的かつ包摂的な視点の上で日々の選択を重ねていくことを諦めないことが必要です。これはSDGsの達成と連鎖しています。

 

最後に余談ですが、偶然ながらも日本とモンゴルの国交が樹立した1972年は、日本の4大公害病の一つ「四日市ぜんそく」患者の勝訴判決が出た年であり、公害健康被害補償法、自然環境保護法が制定された年でもあります。災害だけでなく、日本がかつて抱えていた公害の歴史を改めて振り返れば、涙を流し、苦しみ、差別に耐え、それでも「自分と未来は変えられる」と強く信じ、命をかけて先頭に立って戦ってきてくださった先人の努力の上に、今私たちが吸っている空気や飲んでいる水があり食料・命があることの貴重さに気づかされます。「今さえよければいい」そして「私さえよければいい」を乗り越え、このフォーラムによって次世代につなぐ未来の地域・地球をつくる、その担い手ネットワークと新たな協力の懸け橋ができることを願って止みません。

 

参考文献

  1. 堤田成政・西前 出:Internal Regional Migration Analysis and Modelling of Population Concentration for Ulaanbaatar, Mongolia(モンゴル国ウランバートル市の人口集中に関する人口移動分析), 環境情報科学 学術研究論文集,  vol.28, pp25-30, (2014)https://www.jstage.jst.go.jp/article/ceispapers/ceis28/0/ceis28_25/_article/-char/ja
  2. Mongolian National Center for Public Health and UNICEF(2018)Mongolia’s air pollution crisis: A call to action to protect children’s health (和訳:モンゴルの大気汚染危機 :子どもたちの健康を守る行動を求める) https://www.unicef.org/eap/sites/unicef.org.eap/files/press-releases/eap-media-Mongolia_air_pollution_crisis_ENG.pdf
  3. 駿河輝和:モンゴルの市場経済への移行と社会保障 特集:成長するアジアの社会保障, 海外の社会保障研究, Vol.150, pp65-76,(2005) https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/17690406.pdf
  4. Peter Bittner他: City of Smoke, South China Morning Post(オンラインビデオ) https://www.youtube.com/watch?v=0D8YknSmcB4&feature=youtu.be

 

 

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2022/08/12

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