地学団体研究会(長野)・シンポジウムⅢ:「信州の自然災害と防災・減災を考える」に登壇【日本/本部】
8月21日、地学団体研究会(長野)・シンポジウムⅢ:「信州の自然災害と防災・減災を考える」に登壇する機会をいただきました。
地学団体研究会長野支部は長野県で多発する災害に関し、地学・理工学的な調査を行っている専門家や団体、教員が属している研究会です。本シンポジウムでは、被害の状況、メカニズムの解明、災害予測等の調査・研究の結果・成果等が発表されました。また、「災害研究や防災は、災害の被害報告やメカニズム解明にとどまらず、発災・復興・備え(予測)、地域社会、地域力など包摂的な取り組みが重要である」という認識の下、NPO の活動や報道からみた視点について共有する「災害からの復興、防災からの在り方を問う」というセッションが設けられ、この度発表の機会を頂いた次第です。
SEEDS Asia(大津山光子・有馬沙紀)からは「令和元年東日本台風からの復興まちづくり支援-児童の『声』がつなぐまちの持続性についての中間考察」として発表しました。他に、NHK長野放送局(川村允俊様)からは「地域の災害に密着して見えたこと」、そして毎日新聞長野支局(田倉直彦様)からは「報道が伝える防災の教訓」の3者によるそれぞれ20分の発表も行われました。
SEEDS Asiaが掲げる5つの大切にしているアプローチの一つに、「科学と実践」があります。学術界との連携による理論と実践の相乗効果の実現を図ることは、確かな証拠をもって現実を理解すること、そして改善策を見出すことに役立ちます。
実際に、SEEDS Asiaが令和元年東日本台風からの被災後、長沼の方々を対象に2020年度から復興リレー講座を実施し、復興に必要な知見を沢山の研究者の方々に共有頂いてきました。本シンポジウムのコーディネーターを務めておられる新潟大学の卜部先生にお話を頂いたあと、参加された住民の方のお一人が「やっと、これからのことを考えることができる」というご感想を頂いたことがありました。「なぜ穂保地先で決壊したのか」という拭いきれない疑問を、研究者として中立的・科学的な視点で受け止め、調査内容をご共有頂いたことで、住民の方が納得し持っていた疑念や怒りを冷静な形で捉え直すことができたのです。
上記を一つの事例として、発表の最後には、理科学系の研究者に求めることを3点お伝えしました。一つは、被害調査を住民に広く共有すること。二つ目にハザードの理解の促進をサポート頂きたいこと(例えば、「長沼地区は低地で、立ヶ花狭窄部があるから洪水リスクが高い」という理解に留まらず、なぜそこに狭窄部が発生し、手前の長沼は低地となっているのか?等、子どもたちの「なぜ?」を促し、問いへの答えを観察によって見つけていく活動等)、そして三つ目にまちの魅力を発見する「サイエンス・サポーター」になって頂きたい、という話を加えました。例えば、千曲川は千回もくねくね曲がる暴れ川として知られ洪水を経験したことで「大変怖い」というイメージは拭えません。一方で流域に生息する鳥・虫・魚・植物や、生み出される景観・空気・土壌そして生業等、そこに同時に存在する恵みを科学的な視点で子どもたちが観察・検証することは地域への愛着を生み出します。恵みとリスクを同時に理解していくには、科学者のチカラは欠かせないはずです。
このような研究会を機に、被災地の方々を応援するネットワークが広がり、繋がっていくことを願って止みません。最後に、本研究会にお招きいただきました新潟大学災害・復興科学研究所 卜部厚志教授に心より感謝申し上げます。