鳥羽市×SEEDS Asia 第3回防災リレー講座「災害時の心理」を実施しました
令和7年10月23日(木)、鳥羽商工会議所かもめホールにて、鳥羽市さんとの共催による「防災リレー講座」第3回 「災害時の心理:わたしたちは、なぜ逃げない?備えない?」を開催しました。
今回は、東京大学大学院 情報学環 教授、総合防災情報研究センター長であり、東日本大震災・原子力災害伝承館 上級研究員でもある 関谷直也先生を講師にお迎えして、お話をいただきました。
■災害時の心理
講座では、まず「災害時の心理」について解説がありました。
人間には「自分だけは大丈夫」と思ってしまう正常化の偏見がある一方で、リスクを過剰に捉えてしまう過大視の偏見もあります。こうした心理バイアス(人間に備わった“弱さ”や“癖”)について、災害・健康・事故や恋愛に至るまで多様な事例から、心理バイアスが思考・判断・行動を揺るがしてしまう事象についてご紹介いただきました。また、「忘れてしまう」ことは人間に備わった心の回復力=レジリエンス である一方、忘れてしまうからこそ、繰り返し訓練を重ねて備えることがが不可欠である、という重要な視点も共有されました。

■東日本大震災と避難
続いて、東日本大震災における避難行動の実態が紹介されました。
調査結果から、車避難は一律に否定すべきものではなく、状況・目的・時間軸によっては有効な手段となり得るという重要な視点が示されました。
また、避難の「行動/不行動」には理由と背景が必ず存在し、一元的あるいは精神論的な呼びかけではなく、現実的な意思決定を支える情報と環境設計が求められることが指摘されました。参加者の感想からも、「車避難=危険という固定観念が覆された」「家族の介護を伴う避難について、判断の軸が整理された」といった声も寄せられています。

■災害情報の活用と条件
さらに、災害情報の取り扱いについても紹介されました。災害直後は 停電や通信障害により、インターネットが機能しない場合があることを前提に、ラジオや新聞といったアナログな情報源が最も信頼できる場合が多いことが指摘されました。
また、情報伝達者は、人間にはバイアスが存在していることを前提として、早めの避難を何度も呼びかけるなどの工夫の必要性であること、また、災害時のSNSの誤情報や適切な避難要請の方法についても過去の研究からの学びが共有されました。
講義を終えて、上記の講義内容を踏まえたパネルディスカッション形式の質疑応答で、教育委員会の指導主事の先生方からは、「バイアスがあることを学び、バイアスを前提として防災に取り組むことが不可欠だと感じた」「忘却するからこそ、同じことを繰り返す必要があると強く認識できた」といったコメントがあった他、防災危機管理室からは「『人は情報をうまく受け取れない、避難しない。だから早めに、繰り返し情報を出す』。今日教えていただいたこの前提に立ち、早めかつ繰り返し呼びかける必要を再確認した」という実務の現場からの視点が共有されました。さらに会場からは、「忘却しないための有効な手段」や、「地域での災害対応について、判断を誤ることがないよう、何をすべきか」などの質問が先生に寄せられました。

講座終了後、参加者からは、下記のような多くの気づきや感想が寄せられました(PC画面でPDFをご覧いただくことができます)
防災だけに限らず、「わかる」と「できる」こと、「伝える」と「伝わる」ことの間には、常にギャップがあります。今回の講座は、災害情報と社会心理の観点から、こうした情報伝達の方法、そして私たちの意思決定・行動のメカニズムを捉え直し、平時から行動につなぐ防災への一歩を考える時間となりました。
関谷先生、ご登壇、ご参加くださったすべての皆様、JANPIA/JPFのご支援にに心から感謝を申し上げます。
本事業は、鳥羽市と認定NPO法人SEEDS Asiaが締結した協定に基づく共同事業「地域への愛着を基盤とした地域と学校の連携による学校安全事業]の一環として実施し、一般財団法人日本民間公益活動連携機構(JANPIA)およびジャパン・プラットフォーム(JPF)による支援を受けています。

(※鳥羽市 教育委員委員会・鳥羽市総務課防災危機管理室・SEEDS Asiaの事業担当者ならびに奈良女子大学2回生のインターン生)
過去の防災リレー講座の報告記事は下記のサイトからご覧いただくことができます。